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TOYOTA JAPAN CUP 2016インタビュー番外編(小玉欣一)

2016.03.15

今年の1月15日(金)~17日(日)にかけて沖縄県八重山郡竹富町小浜島リゾナーレ小浜島にて開催された、JWA JAPAN TOUR 2015-16 SLALOM 第4戦の『TOYOTA JAPAN CUP 2016』のインタビュー番外編として、今回はいよいよ最後となるインタビューです。

インタビューは、かつては全日本プロランキング1位という経歴を持ち、現在はすでに全戦サーキット出場はしていないものの、毎年このJAPAN CUPと大分で開催される住吉浜カップには必ず出場している、日本を代表するプロウインドサーファーである小玉欣一選手にインタビューしました。

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まず、小玉選手は、なぜこの2戦にしか出場しないのか、ということについて聞いてみました。

それは、まずこの2つの大会ともに3日間開催なので、大会が成立する確率が高い、ということが第一の理由とのことです。ウインドサーフィンの大会は、当たり前のことですが、風が吹かないと大会としては成立させることが難しく、ましてや週末の2日間だけの開催だと、どちらも風が吹かなければ大会ができず、せっかくエントリーしても、その成果を出し切ることができないからです。今まで、2日間ともに風が吹かず、成立できなかった大会は多くあります。それだけに、大会を開催する上では、できるだけ風が吹く可能性の高い時期を選んだり、場所を選定したりすることが最も重要です。また、小玉選手の場合には、サーキットを回っているわけではないので、年間のポイントを稼ぐ、というよりも、その大会における成績を重視しているために、できるだけ成立する大会を選ぶ必要があるからです。

あとは、やはり小玉選手は、現在、神奈川県の葉山にある森戸海岸にて、ウインドサーフィンショップ「葉山サーフクラブ」を経営しており、ウインドサーフィンのスクールやレンタル業などを営んでいる関係で、こうしたオフシーズンである1月~3月に行われる大会しか出場することができないからです。

年間通してもこの2大会にしか出場していない小玉選手ですが、どちらも好成績を残しているのはやはり過去のプロランキング1位だった、そして海外での経験も持つ、という経歴を持つからだと思われます。しかもこのJAPAN CUPにおいては、昨年は総合6位、今年は総合5位という成績を残し、各レースのファイナルには必ず残り、まだまだ若い選手たちには負けず、そのエネルギーがみなぎった中で自分の走りを見事に結果として残しています。

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次に今年のJAPAN CUPについて聞いてみました。

まず、今年の総合5位という成績について、どう思っているか聞いてみましたが、総合5位でも悔いが残るレースをしてしまったと語っていました。それは、まず第1レースでは、予選ラウンドを3位、そしてセミファイナルでは4位で通過してファイナルへ進みましたが、ファイナルでは9位。また、第2レースでは、予選ラウンドを2位、セミファイナルでは3位で通過してファイナルへ進み、ファイナルでは5位という成績を残しています。どちらもライトウインドという中でのレース展開となったのですが、風が弱いことと、小浜島特有の潮の流れが速かったこと、さらには特にファイナルでは、トップ選手たちが顔を揃えた中でのスタートだったのでそれだけシビアになり、スタートを失敗するとなかなか途中で抜き返すことが難しいこと、そして昨年よりもコースレイアウトが難しく、スタート後の走りについても、ほんの少しのミスが命取りになってしまう、という点で、自分の走りを出し切るのがやはり難しかったと語っていました。

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(第1レースセミファイナル)

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(第2レース予選ラウンド)

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(第2レースセミファイナル)

 

また、第3レースについては、風がかなり強く、スタートはしやすかったものの、セイルチョイスをファイナルでミスしてしまったので、やはり納得のいく結果を出すことができなかったと言っていました。

セイルチョイスをミスして理由については、セミファイナルまでは5.8㎡で走り、予選ラウンドではトップで通過、そしてセミファイナルでも4位で通過できていたので、そのセットアップが自分ではうまくいっていたので、ファイナルでも同じセイルを使ってしまったのですが、実は、第3レースでは、スタートしてから第1マークに向かうコースなどで、通常よりも下側にかなり落として走っていくコースレイアウトとなっていたので、セイルパワーがないとなかなかスピードが出せず、それだけ周りの選手から遅れをとってしまうので、もっとパワーのある大きめの7.0㎡のセイルを使うべきだったと反省していたようです。今までの5.8㎡のセイルとボードとのセッティングが、あまりにも自分では納得のいくセッティングであったために、ファイナルでもそのセッティングで出てしまったことが悔やまれていたようです。もっと勝負に出るべきだったと、現役時代の小玉選手を見ているようでした。結果ファイナルでは、小玉選手のところでは途中で風が急に無くなってしまうという事態が起こり、最後までスピードに乗った走りをすることができず、DNFで終えています。

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(第3レース予選ラウンドで、このあとトップでセミファイナルへ)

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(第3レースセミファイナル)

 

今回のレースでは、実は表彰台を狙っていたようなので、その悔しさは小さくはなかったようです。第3レースのセミファイナルまでは、良い走りをしていただけに、その悔しさは、ひとしおだったことでしょう。

たしかに、小玉選手は、大会中でも必ず誰よりも早く海に出て、その日の風や海面の状況、そしてコースレイアウトなどをじっくりと確認して、長い時間をとって最終調整を行っていたことを覚えています。また、走っては戻ってきてセッティングを調整して再度走り、また戻ってきては調整して、ということを何度も繰り返していたように見えました。最後の最後までわずかな時間でも、現地での最終調整を納得のいくまでしていた様子が今でも脳裏に残っています。

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小玉選手に聞くと、シーズン中は、自分のスクールやショップなどの関係でなかなかレースに対する準備ができない中で、3か月前あたりから本格的に準備に入っているそうです。それは、ボードやセイル、フィンなどのセッティングを細かく確認しながら調整していき、自分の納得のいく走りやスピードが出るようになるまで、何度も繰り返しながら行うようです。でも、それはいつでも同じコンディションの中でできるものでもなく、また、限られた時間の中でそれらを総合的に行わなければならないので、正確に、かつ迅速に少しずつでも前に進めていかないと、レースまでには間に合わないということになってしまいます。小玉選手の場合には、サーキットを現役で回っていた頃の経験や、道具に対する知識などがそれを可能にしていると言えます。

 

やはり、一番重要なことは、”道具を理解しておく”ということだと言っていました。つまり、いくら新しい道具を使ったとしても、その道具のことをよく理解して、自分の道具として使いこなせていけないと本来の道具の性能を引く出すことはできず、また、納得のいくスピードを出すこともできないとのことです。自分のボードやセイル、そしてフィンまでのことを理解して、何度も調整して、それを確認しながら修正して、頭で考えながら課題を見つけつつ、さらにそれを試しては修正して、調整して、確認しながら走りを追及していく、ということのようです。

 

次に重要なのは、やはり自分の体の準備だそうです。常にトレーニングをしてレースには備えているということですが、レース前にはやはりレースで走れるようになる体にしていくとのことです。それは、常に乗り込む、ということも同時に行い、自分の体が走っているときにどのような動きをしているかなど、細かくチェックしていくようです。

 

少しだけ、ということでどうなれば速く走れるのか、ということについて聞いてみましたが、それは走っているときに、自分の頭ができるだけ動かないようにする、ということのようです。つまり、頭が動いているということは、体が動いてブレている、ということで、それはボードへのプレッシャーを正確に伝えることができず、その結果安定した走りをすることができず、ボードが動いてしまって速く走らせることができず、スピードも速く出せない、ということです。つまり、頭を動かないようにして、体も安定してブレず、ボードへのプレッシャーがそのままストレートにかけて走れるようになれば、それが一番速く、そしてスピードも上げて走ることができる、ということです。

また、それは走っているときのフォームが重要と同時に、道具のセッティングもそれに合わせて微調整していく、ということをしなければならないようです。安定して速く走れるようになるセッティングを探していく、という過程がとても重要だと言っていました。

それは、誰かと一緒に走りながら、ということもときには重要ですが、やはり一人でもそのセッティングを探して、自分の出せるスピードの限界をさらに伸ばしていく、ということのようです。実際に小玉選手は、今回のレース前には、たったの2回しか速いトップ選手と一緒に走ったことはない、と言っていました。

これだけのことをたったの3か月間の中でできるのは、相当な集中力と経験、そして道具の知識がないとできないことだと思いますが、小玉選手だからこそこれができる、ということも言えるのでしょう。

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小玉選手は、サーキットを回っているトップ選手と違い、現在は、自分で全て道具を買って揃えて、レースに向けてトレーニングを積み重ね、そして限られた時間の中で結果を出していかなければならないので、全戦サーキットを回っていたころと比べると、大変な部分もありますが、それでも今はとても充実していて、むしろ楽しくてしょうがない、と語っていました。

レースで使える道具はボード2本とセイルが4枚しかなく、現役の選手たちと比べるとそれは不十分な道具かもしれません。でも、それでも、自分で道具を理解して、レースに向けてボードやセイル、フィンなどのセッティングを着実に積み重ね、それによって自分のスピードを上げていき、自分の納得のいく走りができるようにしてレースに臨み、そしてそのレースではその結果が成績として現れる、ということに対して、とても喜びを感じているようです。また、その過程をとても楽しいと言っていました。

 

これからもレースには出たいし、その過程を楽しんでいきたいそうです。また、自分自身が楽しむと同時に、その楽しさをもっと若い選手たちにも伝えていきたいと言っていました。

単にトレーニングをして結果を出す、ということも大事なのですが、道具の理解やセッティングの重要さ、レースまでの準備内容等、結果を出すための過程を楽しみ、楽しむことによってまた良い結果を出せるようにしてあげたいと言っていました。それは、自分がサーキットを回り、世界を経験してきた経験があるからこそ言えることだと思いますが、現役で全力で選手として活動できる時間は決して長いものではないので、できるだけ頑張っている若い選手たちに、やっている分だけ結果が出せるようにしてあげたいし、その目標に向かって応援して、できることは協力していきたいと語っていました。

 

小玉選手の走りを見ていると、まだまだこれからももっと速くなってレースでは活躍できそうな走りをいつでも見せてくれていますが、これからもそうした姿を通して、若い選手たちの刺激となり、レース界、そしてウインドサーフィン界を盛り上げてくれることを期待したいと思います。

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文:OCEANS MAGAZINE

写真:HARRY


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